アイアンマンの称号


朝、まだ真っ暗な内に起きだし、昨日買っておいた
朝食をとり(五島ではお弁当が支給されましたが、
このホテルではサービスはありませんでした)、
また歩いてスタート地点へと向かいました。
周りにはぞろぞろとアスリート達が歩いています。
皆この日の為に頑張ってきたのです。どうか、雨が
降りませんように…。


スイムスタートエリアでごんぞう氏はウエットスーツを着て、
五島では出来なかった試泳をしました。彼の感想は
「外の方が寒い」でした。水温の低さはそんなに問題では
ないようで一安心。そしていよいよスイムスタートです。
この大会ではウェーブスタートとなっていて、さほどバトルに
巻き込まれることなく泳ぎやすかったそうです。
私はごんぞう氏が折り返し地点で一旦上陸してまた泳ぎ出すのを
見届けてから、トランジットエリアに向かいました。
トランジットではすでに沢山の応援者がいました。私の隣に
いた女性二人は、知り合いではない他人らしいのですが
意気投合してお互いのご主人の応援を和気藹々としていて
羨ましかったです。こういう時一人ぼっちは寂しいですね。
そしてスイムスタートから1時間半、ごんぞう氏がトランジットエリアに
やってきました。お揃いの派手なチームジャージが効いたのか、私に
気付いて手を振ってからバイクで颯爽と走り抜けて行きました。


さて、この後が非常に暇な時間です。バイクが終わるのは
どんなに早くても5時間後。それまでここで待つわけにも…。
で、一旦ホテルに帰ってからどうするか考えようと私は
ホテルに戻る事にしました。しかし、行きはごんぞう氏がいたから
さほどでもなかった2kmの道のりが、一人だと結構苦痛です。
30分程かかって何とか到着。部屋でまったりしていると、
ノックの音が。時刻は9時半です。あたふたしているとドアが開き、
「失礼しまーす。お掃除に…」部屋の掃除係の人たちが、
まさかいるとは思わなかった客である私がいるのを見て絶句。
それでも「あの…お掃除に伺ったんですが…」それを聞いて
慌てたのは私です。部屋の中は今朝出かけた時のまま、滅茶苦茶に
散らかっています。少し整頓したいけど、「今はダメです」なんて
言いたくても言えず、「あ…構いませんよ。どうぞ。」と咄嗟に
口から出てしまっていました。すると、「では、失礼します」と、
ゾロゾロと4人の人たちが。すべて女性かとおもいきや、一人は
男の人で、手際よく布団を片づけておられました。そして皆さん結構な勢いで
部屋を掃除して備品を補充して出て行かれました。しかし焦った…。
掃除に来るのは予想してたけど、まさかチェックアウト時間前に来るとは…。


掃除も終わり、また部屋の中は静かになりました。しかしやる事がありません。
前回の五島、その前の宮古島では選手が今どこを走っているのか、ネットで
速報を伝えるサービスがあり、それを携帯及びパソコンでチェックしたりして
結構いい時間つぶし&ごんぞう氏がどの辺を走っているのかが分かって
この後の計画を立てやすかったのですが、今回の大会ではそのようなサービスは
一切ありません。高いエントリー料の割には…ま、いいでしょう。
余りに暇なので困りましたが、このホテルは幸いな事に、大浴場の利用時間が
長く、お風呂に行って時間つぶしをしました。それでも時間はまだたっぷりあります。
迷った末、ごんぞう氏のバイク→ランのトランジットを見に行く事にしました。


ところが…。外へ出ると結構な雨が。お風呂に入る前の午前10時には雨が
降り出していたのは知っていましたが、正午には結構な本降りとなっていました。
「また天気予報外れたよ。雨は夕方からって言ってたのに…」
ブツブツ言いつつ、2キロの道を傘を差して足元を濡らしながらトランジットへ
向かいました。トランジットエリアへの道では、傘を差したり合羽を着たりした
応援者がちらほら。私が到着したのは、バイクスタートから5時間経過した
12時45分でした。ごんぞう氏はバイクの目標タイムを「5時間」と言っていたので
「ちょっと遅かったかな…」と、心配しつつ待っていたのですが、そんな心配とは
うらはらに、待てど暮らせどごんぞう氏は現れません。そういえば、ごんぞう氏は
勿論、他の人たちもそんなに来ない…。「ひょっとして、全体的にバイク遅い?」
予感は的中でした。地面が濡れていて腰を下ろせず、立ったりしゃがんだりして
しびれを切らして待ち続けていた私の前にごんぞう氏のバイクが現れたのは
待ち始めてから1時間近く経った頃でした。その時も私に気づいて笑顔を見せて
くれましたが、後から聞いた話では、バイクの時間は大雨と強風で酷い事になっていた
そうで。しかもコースは「世界一キツイ」と言われていた五島よりも遥かにキツイ
延々と登りが続く「これはヒルクライムか?」と思える程の難コースだったらしく。
ごんぞう氏のバイクのタイムは5時間59分だったのですが、
後でリザルトを見てみると、5時間台でゴール出来た人は本当に少なく、
コースの苛酷さを物語っています。


ランに入っても雨は止む気配がありません。そりゃそうですよね。予報では
時間が経つにつれ酷くなると言ってるんですから…。
ごんぞう氏が無事にランをスタートしたのを見届けてから、私はホテルへ戻り、
また大浴場へ行って雨で冷えた体を温めました。ちょうどホテルの下の道が
ランコースになっているので、大体の計算でごんぞう氏がホテル前を通過する
時間に道の脇へ行き、彼が走るのを見届けました。そして後は彼がゴールに
帰ってくるのを待つだけです。私はホテルの部屋とゴール地点を行ったり来たりして
その時を待ちました。しかし…今回の大会で楽しみにしていた「同伴ゴール」が
どうもこの大会では出来そうにないのです。宮古島ではゴール会場は陸上競技場で、
どこからでもコースに入る事が出来、五島では同伴ゴールする人のためにちゃんと
コーナーが設けられていました。しかし今回はそのような配慮は一切なく、
それどころかコースには胸の高さまであるフェンスが張り巡らされ、選手以外の
部外者は全くコースに入る事が出来ません。ゴール前の花道?も異様に幅が狭く、
ゴールゲートも何人も一緒にくぐれる程広くありません。「この大会はどうも
同伴ゴールは禁止なのかな…」やがてちらほらとゴールする上位選手たちも
誰一人同伴者無しで一人でゴールする姿を見て、悲しい確信をしていたのですが、
中には赤ちゃんや小さい子どもさんを奥さんがフェンス越しに手渡して
選手が抱っこしてゴールという特殊な例を見ました。ま、それは微笑ましいし
例外として仕方ないのかな…なんて思っていたのですが、なんと一人だけですが
フェンスを乗り越えて無理やり花道に入り、同伴ゴールしていた若い女性を
見た時には「ずるい! あんなのあり? だったら私だって乗り越えたい」と
非常にモヤモヤしてしまいました。同伴ゴールは禁止なら禁止で、仕方ないと
思うのですが、そうやって無理やり乗り越えたりするのはオッケーなんて、
何だか納得が行かなくて…。でもこれは運営側が悪いと思います。事前の
ネットでのルール説明の文章でも、選手説明会でも、同伴ゴールの事については
一言も触れていなかったので、「許可か禁止か」というのは曖昧になって
しまっていたのではないでしょうか。そしてその上更に酷かったのが
ゴールゲートの向こうには選手以外の人は入れなかった事です。どんな大会でも
ゴールの向こうは絶好の写真撮影スポットで、応援者がカメラを構える場所です。
なのにその撮影スポットにはプロの業者らしいカメラマンしかいません。
つまりそういう人たちの邪魔になるから応援の人たちは入れないのかなと。
だったらそのプロの人たちにゴールの瞬間の写真は託すしかないのですが、
これがまた最悪でした。後日、ネットで配信されたごんぞう氏のゴールの瞬間の
写真は…フラッシュの焚き忘れなのかすべて真っ暗。こんなんだったら私が
撮った方がよっぽどマシな写真を撮れたのに…と、非常に悔しい思いをしました。


モヤモヤばかり残った大会でしたが、何とかごんぞう氏は11時間台のタイムで
無事にゴールし、完走メダルと完走Tシャツをもらいました。
しかしこれも不満だらけです。メダルはいいとしても、今回完走タオルが無い。
五島や宮古島では完走ポロシャツだったのに、何だか地方のマラソン大会の
参加賞のような見た目パッとしないTシャツが完走記念品だった。
極めつけは完走証。これも五島や宮古島では次の日、リザルト表と一緒に
きちんとした紙質の、カラーで豪華な完走証をくれるのに、この大会では
やはりマラソン大会の時のようにその場でプリントアウトされた(それだけでも
萎えるのに)ペラッペラの紙質の完走証だった。これで75000円とは…。
さすがにごんそう氏もこれにはがっかりしてました。


雨の中走り切ったごんぞう氏はかなりくたびれた様子で、さっさと隣の
私達のホテルへ戻り、ソッコーでお風呂に入って食事をして
それから大急ぎでバイクを取りにトランジットエリアへ車で行き、
ホテルへ戻ると花火を見る事もなく寝てしまいました。
私は降り続く雨の中、ランコースを走る人たちと花火を見ながら
「色々あったけど、過酷な条件の中、彼が完走出来てよかった…」と
胸を撫で下ろしたのでした。しかし忌々しい雨はいつまでも降り続けていました。